こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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開け放された生徒会室のドア。
いつもなら飛び込む程の勢いで入るのに、今日はそんな感じじゃない。
野生の勘って言うのかな、あたしの場合は。
ドアから洩れる蛍光灯の光や、書類を捲る音がメンバーの誰を示しているかが分かるから。
最近はない、けれどその慣れ親しんだ雰囲気。
覗き込むと、ほら・・・やっぱり。
背が高く広い背中は、あたしを拒んでいるみたい。
息を潜めて暫くそんな背中を見つめていると、視線を感じたみたいに振り向いた。
心臓が、口から出るかと思った・・・
でも。
「野梨子?」
「・・・え?ち、ちが」
「あ、ごめん、悠理。文化部の集まりで遅くなるって、てっきり野梨子かなと。
久しぶり!」
「お、お久しぶり!元気してた?」
「ええ、元気ですよ。悠理は?相変わらず元気そうだね」
「もっちろん!」
頬が熱くなるのを抑えるような気持ちも、一瞬にして凍りつく。
無理に、笑顔を作って見せる。
“いつも通りの”って美童が言ったけど、やっぱり出来ない。
自分の唇が震えているのが分かる。
ちょっと顔色の悪い清四郎が、あたしに微笑んでくれているけれど・・・
次の言葉が出てこない。
何を話題にして良いのか、ちっとも分からない。
今まで、どんな会話をしてたのかな?
「悠理は・・・どうして遅くなったの?あ、さては居残りだな?」
「ブッブッー!違います。あたしのファンの集いがあったから。
インタヴューに答えていました」
「おや、スゴイ。雑誌にでも載るみたい」
「まーねー。写真もバンバン撮られちゃったよ」
普段はこんな馬鹿げた会話なんてしないくせに、清四郎ったら楽しそうにしてる。
「じゃあ、僕にも一枚撮らせて下さいよ」
テーブルの上にある携帯電話を取り上げて、清四郎はあたしにレンズを向ける。
あっと思っている内に、一枚・・・
「あーっ!ダメっ!」
「どれどれ。お、なかなかの美形。綺麗に撮れてますよ」
勝手に撮った写真を、ニヤニヤ見つめてる。
イヤな感じ・・・どーせヘンに撮れてるに決まってる。
「ちょっとぉー。写真撮るなら、事務所通せよなっ!」
「あはは!ほら見てごらん」
携帯電話の画面をあたしに見せる。
驚いた。自分じゃないみたいに真面目な顔でこっちを見てる。
「上手く撮れてるでしょ?」
「う、うん」
消せよ、と言う前に、清四郎は口を開く。
画面に映る、あたしに話しかけてるみたい。
「悠理は美人さんだから。こうしていると、本当に」
「な、ナンだよ。恥ずかしいヤツだな」
困ったように画面に微笑みかけている。
やっぱり調子狂うなって思ってると、パチン、と携帯電話を閉じる音が響いた。
また会話が途切れる。
ごめんな。ここにいるのがあたしで。
「野梨子、遅いね。呼んでこよっか?」
清四郎はちょっと唇を窄めて、子供みたいな顔をあたしに向けた。
「自分で決めた進路だけど、やっぱり、みんなとの時間が恋しいよ」
突然意外なコト、言うね。
いつも強がりばっかりで偉ぶっているくせに・・・
「今更だけど、みんなと同じ大学に進めばいい」
「ん・・・そうしたいけれど、そうも言っていられない」
「らしくないね。大変なの?」
「準備の方は順調さ。ま、大変には違いないけれど。そっちの方は大丈夫」
「そう?」
「うん。けど・・・」
何か言いたそうに、でもどうしようか迷うように天井を見たり手元を見たり。
こんな落ち着きがない清四郎、見たコトない。
ジロジロ見るのもおかしいから、あたしは窓辺に進む。
部屋の中は蛍光灯の光を必要としているのに、外は明るくて夕方の気配が始まったばかり。
いつもよりちょっと遅い放課後は、下校する生徒も少ない。
初等部の頃は、今みたいに下校時間にまだ厳しくなかったから、
お迎えをほったらかしにして校内を遊び回っていたけれど。
今そんな生徒がいたら、怒鳴られて終わりだ。
お昼とは違う、どこか懐かしい陽射しが校門までの道を照らしている。
決まった道。それぞれの役割・・・
魅録の言葉を思い出す。
こんなに胸が苦しいのに、決まった道を進まなきゃいけないのかよ。
悠理って呼ばれたような気がして振り向くと、清四郎がすぐ後ろに立っていた。
「進路を変えるつもりはない。
けれど、悠理の顔を見ていると、みんなとの時間が恋しいと思うのは事実」
「でも・・・自分で決めた道を進む・・・そうだろ?」
真っ黒な瞳で見つめられる。
今度は、ドキドキはしなかった。
「魅録が言ってた。
人には決められた道があって、それに沿ってそれぞれの役割を果たさなくちゃいけないって。
清四郎が決めたのも、役割を果たす為だからって。
ねぇ、そうなの?」
「運命の事を言っているの?」
「うん」
「そうだね。そう思う事で、気持ちを切り替えられる。
きっと、正しい方向へ向かっているって思える」
初めて見る、自信なげな清四郎。
「選択を間違ったって言っているんじゃないんだ。
僕は自分の運命を生きるしかない。だから、自分の思う最高の生き方をすればいい」
「うん」
「僕は今、受験の為に倶楽部を離れつつある。けれどそれが全てなんかじゃない。
僕達の人生が支配されていると言うのであれば尚更さ」
「うん・・・ちょっとムズカシイケド・・・」
「正直、淋しいよ。みんなとバカ騒ぎが出来なくてね。でも、これが終わりじゃない」
悠理・・・
また、あたしの名前を呼ぶ。
声に出さない清四郎の口がそう呟いた。
オレンジ色の光が清四郎の顔に射しかかる。
さっきの陽射しよりも、もっともっと濃いオレンジ色。
「僕達の出逢いが運命であるならば、別離で終わってなんかいられない。そうだろ?」
未来を見透かすように、その言葉を自分に言い聞かせるように清四郎は言う。
「僕を、待っていて欲しい。必ず戻るから」
まるで、ちょっと出かけるみたいだ。
そう言おうとして、でも言葉が詰まる。
“悠理には俺がいる”
魅録の言葉をまた思い出す。
“先の事はもちろん、俺にも分かんないけどさ。
今のお前には俺がいる。それだけ”
魅録・・・
倶楽部の、あたしの役割って何?
待つ事が、あたしの今の役割なの?
夕陽がこんなに淋しい色をしてるって初めて知ったよ。
欲しい言葉を、与えられたような気がする。
先の事はワカンナイよ、でも、でもさ・・・
決められた道に、道しるべってないのかな?
だったらあたしは、あたしが思う最高の生き方をしたいんだ。
「清四郎、あたし・・・」
オレンジ色に染まる清四郎の手がゆっくりと伸び、あたしの頬に触れた。